1:伝統工芸とコラボレーションを続ける理由
昨年、武州正藍染とのコラボレーションを発表しました。
伝統工芸の復興や普及は、1度のプロジェクトで完結するものではないという考え方から、
単発で終わるものではなく、ブランドとして長期的な視野で取り組んでいます。
そして今、新たな伝統工芸事業者との取り組みも進めており、今後は複数の取組みを平行して進めていきたいと考えています。
次の新しい取り組みは、2025年 今春、5月にお披露目します。
でも、その前に——
私がなぜ伝統工芸とコラボレーションを続けるのか、その理由をお話ししたいと思います。
2:きっかけは15年前、京丹後市のちりめん工場で
15年ほど前、京都・京丹後市を訪れたときのことです。
地場産業である「丹後ちりめん」の工場を案内していただき、その現状を伺いました。
長い歴史を誇る織物も、時代の変化とともに苦境に立たされており、関係者の方によると、地場産業の衰退とともに町もひっそりとしていったそうです。
その頃はまだブランドを立ち上げる前の話ですので、何かアクションを起こすこともなく、お話しを聞いているだけでした。
それから15年が経ち、自身のブランドを立ち上げましたが、ファッションの世界に居ながらも、パリの学生時代からずっと、「一過性に消費されていくだけのファッション」に疑問を感じていました。
ただ、ものづくり思考に強い関心があったため、その思考を自分のブランドに反映させるにはどうしたら良いのか模索していました。
2018年の春にブランドをスタートさせ、2019年から、自分の出身地である埼玉県を中心に、伝統工芸の事業者を訪ね歩きました。
岩槻、加須、八潮、小川町、寄居町など、まずは自身の出身地の伝統産業を知るため訪ね歩きましたが、今まで同県でありながらなかなか訪れる機会がなく、県内にこれだけ素晴らしい伝統技術があったことを初めて知りました。
そして昨年、自分の出身地・埼玉県の伝統工芸である「武州正藍染」の染工場と出会い、コラボレーションがスタートしました。
武州正藍染とは、渋沢栄一ゆかりの事業です。
しかし、最盛期には200軒あった藍染の事業者も、今ではわずか5軒になりました。
コラボを進める期間中にも、そのうちの1軒が廃業し、現在は実際に染色を行っているのは4軒のみです。
さて、ここからが本題です。
3:「伝統は大切にすべき」…本当にそうなのか?
伝統工芸は手間がかかり、大量生産には向いていません。
そのため、単価が上がり、時代のニーズとも合わず、次第に衰退してきました。
「伝統は守るべき」「後世に受け継ぐべき」
—— そう言われると、なんとなく「そうだ」と思ってきました。
でも、なぜそんなことが必要なのでしょうか?
言葉で、その必要性について説明することは出来ませんでした。
そんなとき、あるマレーシアのアートディレクターと話をする機会がありました。
お互いの仕事内容を紹介していくなかで、彼が言った言葉。
「私は、日本の伝統工芸が好きです。」
「私たちの国・マレーシアはできたばかりの国で、歴史が浅い。」
「だから、日本の様に何百年も受け継がれてきた文化があるのが【とてもうらやましい】」
彼の言葉を聞いて、はっとしました。
日本の伝統工芸=日本の歴史
伝統工芸を1つ失うということは、日本の歴史の1ページが失われることと同じです。
当たり前のことだ、と思われるかもしれませんが、伝統を大切にしなければいけない理由を
このように「言語化」すると重みがあります。
そして今、日本の全国各地でその歴史が次々と消えつつあります。
私たちの知らないところで、伝統工芸の灯は、次々に消えているのです。
4:消えていく日本の物語
日本という1冊の本。
そこには、先人たちが何世代にもわたって紡いできた、様々な物語が書かれています。
でも、誰も気にしないうちに、1ページ、また1ページと、破り捨てられていきます。
気づいたときには、ページの大半が抜け落ちているかもしれません——。
それが続いていけば、日本という1冊の本の中身は無くなってしまいます。
私たちは今、そんな時代を生きているのかもしれません。
伝統工芸を「生きた文化」として未来へ
だからこそ、私は伝統工芸を「現代に適応させる」ことが必要だと考えています。
国の補助金や支援だけで守り続けるのではなく、
“今の暮らしの中で生き続けるもの” として、進化させる。
伝統を“守る”のではなく、“活かす”。
そうすることで、伝統文化は時代を超えて受け継がれていきます。
5:受け継がれるものを、未来へつなぐ
伝統を守ることが目的ではありません。
あなたにとって、ずっと大切にしたいものは何ですか?
流行は移り変わります。
けれど——
本当に心が動くもの、長く愛せるものが、きっとあなたの人生を豊かにするはずなのです。
「今の私たちにとって、心が動く1着をつくること」。
それが結果として、未来に受け継がれるものになればいいと思います。
だから私は、
「今を生きる私たちが、本当に美しいと思えるもの」
「未来の誰かが受け継ぎたくなる、時代を超えて愛されるデザイン」
そんなものづくりを続けています。
この想いを込めた新製品。
2025年5月に、お披露目します。
どうぞご期待ください。
北迫秀明